脂質異常症 アメリカ内分泌学会 ガイドライン 2025
本年度改訂されました。
Table3に推奨事項があり、そのまとめになります。
Endocrine Practice 31 (2025) 236e262
https://doi.org/10.1016/j.eprac.2024.09.016
1. 脂質異常症の成人に対する一次予防のため、治療に関する共有意思決定の一環として、将来のASCVD(動脈硬化性心血管疾患)イベントのリスクを予測するための信頼性のあるツールやリスク計算機の使用を推奨する。
(優れた診療指針に基づく提言、評価等級なし)
- ASCVDリスク評価は、個人中心の脂質異常症管理において中心的役割を担う。
- ただし、CAC スコア、ApoB、Lp(a)の追加検査は広く適用するには有用性が限られており、追加費用を理解した上でリスク情報に価値を置く中間リスクの個人に限って検討されるべき。
2. 最大耐用量のスタチンを使用している場合、すでにASCVD(動脈硬化性心血管疾患)があるか、またはASCVDのリスクが高いにもかかわらず、目標値(LDL-C <70 mg/dL)に達していない場合には、通常の治療に加えてエボロクマブまたはアリロクマブの使用を推奨する。
(条件付き推奨、エビデンスの確実性は中等度)
3. ASCVD を有さない場合、通常治療に加えてエボロクマブまたはアリロクマブの追加を推奨しない。
(条件付き推奨、エビデンスの確実性は中等度)
- エボロクマブとアリロクマブの直接比較は存在しない。
- いずれかのモノクローナル抗体の使用は検討される可能性がある。
- 多くの試験参加者はASCVDリスクが高いか、二次予防のために治療を受けている患者。
- リスクの低い成人において、これらの薬剤の使用による利益が害を上回るかは不明。
- ベネフィットとハームのバランスは、低リスク成人では不明。
4. インクリシランの使用に関しては、推奨も否定もしない。
(推奨なし、エビデンス不十分)
- 全体としてインクリシランに関する試験数および心血管イベントの発生数が非常に少なく、通常の治療に加えて使用した場合の潜在的な利益と害のバランスを判断することができない。
- 十分な検出力を持つ長期的な心血管アウトカム試験が必要。
5. スタチン不耐で ASCVD がある、または高リスクの成人に対しては、ベンペド酸の追加使用を推奨する。
(条件付き推奨、中等度のエビデンス確実性)
6. ASCVDを有しておらず、他の脂質低下薬を使用できる場合、通常の治療に加えてベンペド酸を使用することを推奨しない。
(条件付き推奨、中等度のエビデンス確実性)
- 心筋梗塞の軽微な減少効果の可能性があるが、痛風、胆石、腱断裂などのリスクもある。
- 治療選択はリスク・ベネフィットの話し合いに基づくべき。
- 臨床試験では、他の脂質低下薬(低用量スタチンを含む)の使用に関連する集団の異質性が大きくみられた。
- 一次予防に関するエビデンスは限られている。
7. 高トリグリセリド血症(150–499 mg/dL)で ASCVD がある、または高リスクの成人に対しては、EPA(イコサペントエチル)をスタチンに追加することを推奨する。
(条件付き推奨、低確実性のエビデンス)
8. 重度高トリグリセリド血症(≥500 mg/dL)の成人に対して EPA の使用については、推奨も否定も行わない。
(推奨なし、エビデンス不十分)
- 心筋梗塞を軽減する可能性はあるが、心房細動や出血リスクの可能性もあるため、リスクとベネフィットの議論を含めた共有意思決定アプローチに基づいて行うべき
- 重度高TG血症(500 mg/dL以上)の患者は、いずれの臨床試験にも含まれていない。
- また、これらの試験ではEPAまたはIPE単独療法による膵炎への影響についても報告されていない。
9. 高トリグリセリド血症(150–499 mg/dL)で ASCVD がある、または高リスクの成人に対しては、EPA+DHA の追加を推奨しない。
(条件付き推奨、低確実性のエビデンス)
10. 重度高トリグリセリド血症(≥500 mg/dL)に対する EPA+DHA の使用については、推奨も否定も行わない。
(推奨なし、エビデンス不十分)
- EPA+DHAは、心血管イベントや死亡率の臨床的に意味のある低下は認めなかった
- また心房細動や大出血のリスクがわずかに増加する可能性がある
- 治療の選択は、これらの潜在的な利益とリスクについて話し合う共有意思決定アプローチに基づいて行うべき。
- 重度高TG血症(500 mg/dL以上)の患者は、いずれの臨床試験にも含まれていない
- EPA+DHAの膵炎への影響についても報告されていない。
11. 高トリグリセリド血症(150–499 mg/dL)で ASCVD がある、または高リスクの成人に対して、ナイアシンの使用は推奨しない。
(強い推奨、低確実性のエビデンス)
12. 重度高トリグリセリド血症(≥500 mg/dL)に対するナイアシンの使用については、推奨も否定も行わない。
(推奨なし、エビデンス不十分)
- ナイアシンはスタチンとの併用で心筋梗塞のリスクをごくわずかに低下させる可能性がある
- しかし、感染症、出血、高血糖イベントによる入院のリスクが軽度から中等度に増加する可能性があるため、重大な有害事象のリスクが伴う。
- ナイアシンとスタチンの配合薬は、現在FDAに承認されていない
13. ASCVD がある、または高リスクの成人において、薬物療法の目標として LDL-C <70 mg/dL を推奨する。
(条件付き推奨、低確実性のエビデンス)
- 2017年のガイドラインでは、より低いLDL-C目標値(55 mg/dL未満)が推奨されたが、これはスタチンとエゼチミブ併用に関する1件の試験結果に基づくもの。
- その後の複数の試験と多様な薬剤によるメタアナリシスでは、心血管イベントまたは死亡率に有意な差は示されていない。

TTP JAMA Review
JAMAより「Immune Thrombotic Thrombocytopenic Purpura」
2025年5月
doi:10.1001/jama.2025.3807
TTPについてJAMAのReviewです
一部抜粋してまとめています
病態生理
• 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は、ADAMTS13 という酵素の著明な欠乏により発症する。
• ADAMTS13 は巨大な vWFマルチマーを切断するが、欠乏によりこれが蓄積し、血小板と結合して微小血管内血栓を形成。
• これにより赤血球が破壊され(溶血)、脳梗塞や心筋梗塞などの臓器虚血が生じる。
• iTTP では、IgG 型自己抗体が ADAMTS13 を阻害・除去する。
• ADAMTS13 活性が 10%未満で発症するが、一部の患者ではそのような低活性状態が長期間持続していても症状が出ないこともある。
疫学
• 年間発症率は全世界で 100 万人あたり 2~6 人。
•成人(子どもと比して IRR: 31.62)、女性(男性と比して IRR: 3.19)、黒人(非黒人と比して IRR: 7.09)に多い。
• 成人例の 95%以上が iTTP(自己免疫性)、3~5%が先天性 TTP。
• 関連する病態:SLE、HIV、妊娠、悪性腫瘍、薬剤(チクロピジン、キニーネ、ゲムシタビン、カルシニューリン阻害薬など)
診断
臨床症状と初期検査所見
• 主症状
神経症状;頭痛、意識混濁、視覚異常、けいれんなど:39~80%)
腹痛/悪心;35~39%)
発熱;10~35%
• 「TTP 五徴候」(貧血、血小板減少、発熱、腎・神経症状)の全てが揃うのは 10%未満。
• 血液検査
血小板減少(<30×10⁹/L)
溶血性貧血;高 LDH、高間接ビリルビン、高網赤血球、低ハプトグロビン、クームス陰性
血液塗抹で破砕赤血球 ≥1%
• 凝固系は通常正常または軽度延長。
• AKIは 48%、顕著な腎機能障害(Cr ≥2.5 mg/dL)は 14%
ADAMTS13 活性の測定と解釈
• MAHA と血小板減少があり、他の明らかな原因(がん、移植、敗血症、DIC など)がない場合は ADAMTS13活性を測定。
• 活性 10%未満で TTP と診断される。10~20%でも臨床的に疑わしい場合は再検査と治療開始を検討。
• 測定法:FRET アッセイや ELISA。
・血漿交換前に採取すべき(ドナー由来 ADAMTS13 で偽高値となる)。開始から 1 日以内の感度 89%、2 日で 83%、3 日で 78%。
抗 ADAMTS13 抗体検査
• 活性低下がある場合、抗 ADAMTS13 抗体(機能阻害アッセイや IgG ELISA)を測定。
• 約 67〜98%の患者で抗体が検出されるが、陰性でも iTTP を否定できない。
• 機能阻害アッセイは弱い阻害能やクリアランス促進型抗体を検出できないことがある。
• 抗体陰性かつ ADAMTS13 <10%が持続する場合は先天性 TTP を疑い、遺伝子解析を行う。
鑑別診断
• 補体系異常による TMA(例:aHUS)は iTTP よりも軽度の血小板減少とより重度の腎障害を呈する。
• 妊娠関連(HELLP 症候群など)
・ビタミン B12 欠乏;平均 MCV 高値、LDH 極端高値、網赤血球低下
臨床予測スコア
● PLASMIC スコア
• 構成項目:血小板<30、Cr<2、溶血所見、INR<1.5、MCV<90、がんなし、移植歴なし(各 1 点)。
• 5 点以上で感度 99%、特異度 57%。TTP 疑い時の早期治療開始の根拠となる。
● FRENCH スコア
• 項目:血小板<30、Cr<2.26、抗核抗体陽性。
• 感度 98.8%、特異度 48.1%。簡便であるが抗核抗体検査は即時利用しづらいため修正版が使用されることが
多い。
● 年齢別感度
• PLASMIC スコアの感度は 18-39 歳で 91.4%、60 歳以上では 76.9%。
• FRENCH スコアは若年層で 100%と高感度を示すが、高齢者ではやや感度低下。
初回 iTTP エピソードの治療(ISTH 2020 推奨)
血漿交換療法
• 自己抗体除去 + ADAMTS13 補充。
• 死亡率を 90%超→9〜20%に低下。
• 診断確定前でも臨床的に疑わしければ即開始。
• 出血、感染、アレルギー等の合併症に注意。
• 代替手段として血漿輸注あり(緊急移送中など)。
コルチコステロイド
• 自己抗体の産生抑制。
• 併用で死亡リスクを減少(推定 1000 人中 176 人減)。
• プレドニゾロン 1 mg/kg/日が一般的。高リスクにはメチルプレドニゾロン IV。
• ADAMTS13 が回復後に速やかに減量。
リツキシマブ
• B 細胞を枯渇させて自己抗体産生を抑制。
• 週 1 回 375 mg/m²×4 回が標準。
• 再発抑制に有効(OR 0.40)。
• B 型肝炎再活性化予防が必須。副作用時は他の抗 CD20 薬を使用。
カプラシズマブ
• vWF と血小板の結合を阻害するナノ抗体。
• 血小板回復が 0.7 日短縮
・死亡率・再発・難治例が減少
• ただし、治療終了後 30 日以降の再発リスクがやや増加(+14%)。
• 3 か月生存率の改善、再発率・難治化率の低下を複数研究で確認。
• 投与期間は 30 日が標準、ADAMTS13 未回復なら最長 28 日延長。
• 主要副作用は出血(特に高齢者や脳卒中例)。重篤な出血は 2%程度。

副腎不全 BMJ ガイドラインサマリー
BMJより「Adrenal insufficiency: identification and management—summary of new NICE guidance」
2025年5月
http://doi.org/10.1136/bmj.r330
副腎不全についてNICEガイドライン(2024年)のまとめです。
その中から抜粋してご紹介します。
NICEは英国のガイドラインを作成している機構ですね。
本文のコルチゾール単位は日本と異なります。
150nmol/lは、約5.4μg/dl
300nmol/lは、約10.8μg/dl
推奨事項
診断・評価
• 朝 8〜9 時に採⾎した⾎清コルチゾール値を指標に評価する。
o <150 nmol/L:副腎不全の可能性⾼ → 専⾨医に迅速紹介
o 150〜300 nmol/L:不確実 → 再検査や専⾨医相談を推奨
o >300 nmol/L:副腎不全の可能性低
• 使⽤する免疫測定法によって基準値が異なる場合があるため、地域の検査ガイドラインにも従うこと。
治療薬と指導
• 原発性副腎不全や先天性副腎過形成には、グルココルチコイドとミネラルコルチコイドを併⽤。
• ⼆次性・三次性の場合はグルココルチコイド単独で管理。
• 診断後、以下を患者と家族に説明・共有する:
o 緊急⽤ステロイドカード
o モバイルアプリ、アラートジュエリー
o 医療費助成、学校・職場での配慮
o 緊急時の⾃⼰注射と医療機関受診の流れ
症状と原因
典型的な症状(数週間〜数ヶ⽉持続するもの)
• ⾷欲低下、体重減少、塩欲、吐き気、嘔吐、下痢
• ⽴ちくらみ、筋⼒低下、倦怠感
• ⼩児では:成⻑不良、低⾎糖、遷延性⻩疸
• ⽪膚の⾊素沈着(特に原発性副腎不全)
リスク因⼦
• ⻑期ステロイド使⽤後の中⽌(成⼈で 4 週以上、⼩児で 3 週以上の使⽤)
• 糖尿病、甲状腺機能低下、⾃⼰免疫性疾患
• 免疫チェックポイント阻害薬や抗真菌薬の使⽤ 歴
注意点
• 倦怠感や下痢などの⾮特異的な症状のみでは、検査の対象とはならない。
• ⽪膚の⾊素沈着や塩欲など、副腎不全に特徴的な所⾒が複数ある場合に検査を考慮する。
初期検査
• 第⼀選択は「朝 8〜9 時の⾎清コルチゾール」
• 確定診断には短時間作⽤型 ACTH 刺激試験やインスリン低⾎糖試験が必要だが、実施
が難しいこともある。
• ⼀般臨床ではまず簡便で費⽤対効果の⾼い朝の⾎清コルチゾールが推奨される。
• 検査対象とならない例:
o ⽣理的量以上の経⼝ステロイドを現在も服⽤中の患者
• 注意点:
o ステロイド筋注後は 4 週間以上空けてから検査
o 乳児(1 歳未満)は、時間にこだわらず採⾎し、⼩児専⾨医の判断を仰ぐ
治療
グルココルチコイド補充
• 成⼈(16 歳以上):
o ヒドロコルチゾン 15〜25mg/⽇(2〜3 回に分けて)
o プレドニゾロン 3〜5mg/⽇、デキサメタゾン 0.5mg/⽇など代替薬もあり
• ⼩児:体表⾯積あたり 8〜10mg/m²/⽇(3〜4 回に分けて)
• 乳児:同様に 8〜10mg/m²/⽇(等分割)
ミネラルコルチコイド補充
• 原発性や CAH の場合に必要(フルドロコルチゾン 50〜300μg/⽇)
• ⾼活動の若年層ではより⾼⽤量が必要な場合も
シックデイルール
• 感染症、外傷、⼿術などのストレス時は、ヒドロコルチゾン 40mg/⽇以上を 2〜4 回に分けて投与
• 嘔吐がある場合は筋注を推奨
• 状態が悪化すれば、即時に救急搬送・⼊院が必要
グルココルチコイド離脱管理
離脱対象者
• ⻑期(成⼈で 4 週、⼩児で 3 週以上)ステロイドを使⽤し、治療⽬的を終えた患者離脱⽅法
• ⽣理的量(例:プレドニゾロン 5mg/⽇)まで減量後:
o 隔⽇投与を 2 週 → 週 2 回投与を 2 週 → 中⽌
• 12 週以上の⻑期使⽤者は、より緩やかな減量が推奨される
投薬の切替
• 成⼈:デキサメタゾン → プレドニゾロン(調整しやすいため)
• ⼩児:プレドニゾロン → ヒドロコルチゾン

痛風 Annals Review
Annals of internal medicineより「Gout」
2025年3月
doi:10.7326/ANNALS-24-03951
痛風についてリスク因子・診断・治療などが解説されています。
その中から抜粋してご紹介します。
1. リスク因子
- モノソディウム尿酸(MSU)結晶が関節、腱、滑液包などに沈着し、疼痛発作や組織損傷を引き起こす。
- 血清尿酸値が6.8 mg/dLを超えるとMSU結晶が析出しやすくなる。
- 主なリスク因子
- 痛風、メタボリックシンドローム、腎機能障害、心血管疾患、脂質異常症と関連している。
2. 診断
臨床的特徴
・古典的なポダグラ(母趾MTP関節の発作)や、トーフス(結節状の尿酸沈着)が特徴的。
・診断確定:関節液でMSU結晶検出が必要。
・初発例、非典型例、または敗血性関節炎が疑われる場合には関節穿刺を必ず行うべきである。
血清尿酸値
・発作中は炎症性サイトカインの作用で尿酸値が一時的に低下することがあるため、発作後2週間以降の測定が望ましい。
画像
・単純X線:初期は正常、慢性期には骨びらんを認めることがある。
・超音波検査:ダブルカウントサイン(軟骨表面のMSU沈着)やトーフスの検出に有用。
・二重エネルギーCT(DECT):鑑別に役立つが、発症初期の感度は低い。
・MRI:炎症や損傷、トーフス検出には有用だが、MSUとCPPDの区別には限界がある。
鑑別診断
・偽痛風、敗血性関節炎、変形性関節症、リウマチ性関節炎、蜂窩織炎などとの鑑別が必要である。
3. 治療
基本方針
痛風治療は以下2つを同時に目指すべきである。
① 炎症症状(痛み・腫脹)の抑制
② 血清尿酸(SU)値の持続的低下による結晶溶解と再発予防
治療は急性期対応と長期管理の二本立てである。
抗炎症療法
抗炎症薬は2つの場面で使用する。
・急性発作時の即時治療(オンデマンド治療、Pill-in-pocket戦略)
・尿酸降下療法(ULT)開始時の発作予防
● 急性発作時(オンデマンド治療)
- 発作早期に抗炎症薬を開始することが痛みの軽減に最も重要。
- 局所冷却と十分な水分摂取も補助療法として有効。
-
軽症~中等症では抗炎症薬やステロイド関節注射
- 抗炎症薬:
- NSAIDs:ナプロキセンなど。
- コルヒチン:1.2mg loading dose, 0.6mg daily
- 経口プレドニゾロン:0.5mg/kg daily, 3日, 10-14日で漸減
- インターロイキン1:カナキヌマブ、アナキンラ
- 重症例(多関節炎、大関節複数部位):併用療法も考慮。治療期間は最低7-10日。
発作予防
- 尿酸降下療法(ULT)開始時には、発作予防目的で抗炎症薬併用が推奨される。
- 特に初期のULTではMSU結晶の不安定化により発作が誘発されやすいため、最初の3–6か月間の予防投与が勧められる。
- 抗炎症薬の選択は急性期と同様。
尿酸降下療法
- ULTは以下に該当する患者に適応される。
- 年間2回以上の発作歴
- 臨床的にトーフスを認める
- 画像上のびらん性関節病変
- SU >9 mg/dL、慢性腎疾患(CKD)、尿路結石歴など
- 治療目標は
- 血清尿酸値 <6 mg/dL
- トーフスのある場合はさらに**<5 mg/dL**を目指す。
● 第一選択薬:キサンチンオキシダーゼ阻害薬
- アロプリノール
- 軽度発疹(2–5%)、重篤なアロプリノール過敏症症候群(AHS)に注意。
- HLA-B*5801遺伝子検査(アジア系、アフリカ系)推奨。
- アザチオプリン、6-MP併用は禁忌。
- 通常、正常腎機能患者では100mg/日から開始し、SU値に応じて2–6週ごとに増量。
- CKDステージ3b以上では50mg/日から開始。
- 多くの患者は300mg/日超えが必要であり、最大800mg/日まで使用可能。
- 副作用注意:
- フェブキソスタット
- CARES試験で心血管リスク増加が報告されており、使用には慎重なリスク評価が必要。
- 40mg/日開始、必要に応じて80mg/日(欧州では最大120mg/日)まで増量可能。
- 軽~中等度腎・肝機能障害では用量調整不要。
- 注意点:
● 第二選択薬:尿酸排泄促進薬(ウリコスリック薬)
- プロベネシド
● 難治例・重症例に使用:ウリカーゼ製剤
ライフスタイル管理
ULT導入時の工夫と患者教育
- 「start low, go slow」(少量からゆっくり増量)の方針が推奨される。
- フレア時の対処法(Pill-in-pocket)、治療の意義、期待できる効果を事前に丁寧に説明することがアドヒアランス向上に不可欠である。
- 看護師主導の教育介入研究では、患者教育によって95%以上の高い服薬遵守率が得られた。
入院管理
- 以下の場合に入院が検討される。
- 極めて重症な痛風発作で自己管理困難な場合
- 敗血性関節炎との鑑別・抗菌薬投与が必要な場合
- 入院中は、腎機能悪化時でも安易なULT中断は避け、必要に応じて慎重に調整すべきである。
- 入院中のULT中断は痛風フレアリスクを14倍に増加させるとの報告がある。

鉄欠乏 JAMA Review
JAMAより「Iron Deficiency in Adults」
2025年3月
doi:10.1001/jama.2025.0452
成人の鉄欠乏について診断・原因・治療などが解説されています。
その中から抜粋してご紹介します。
診断
1. 鉄⽋乏の検査適応
• 以下のいずれかを満たすすべての患者は、鉄⽋乏の検査を受けるべき:
o 鉄⽋乏を⽰唆する症状(例:疲労感、異⾷症、むずむず脚症候群など)
o 貧⾎:ヘモグロビン値の低下
o 原因不明の⼩球性貧⾎(平均⾚⾎球容積 [MCV] <80 fL)
• 検査には、⾎清フェリチン値、トランスフェリン飽和度(TSAT)、⾎算を⾏う。
2. ⾎清フェリチンの役割と解釈
• ⾎清フェリチンは鉄⽋乏の初期評価において第⼀選択。
• フェリチン<30 ng/mL は、⾻髄鉄⽋乏の標準的指標として 98%の特異度と 92%の感度で、絶対的鉄⽋乏の定義に広く⽤いられる。
• しかし、フェリチンは急性期反応物質であり、炎症(例:IBD、CKD、⼼不全、癌)時には上昇し、診断の感度が低下する。
• 炎症を伴う鉄⽋乏患者において、フェリチン値が 100 ng/mL を超えることは稀である。
• フェリチンが 50 ng/mL を超えていても鉄⽋乏が疑われる場合には、TSAT を併⽤すべき。
3. トランスフェリン飽和度(TSAT)の意義
• TSAT とは、⾎中トランスフェリンに占める鉄の割合(鉄/TIBC × 100)を⽰す。
• TSAT<20%(⼀部⽂献では<16%)は、バイオアベイラブルな鉄の⽋乏を⽰す。
• フェリチンが炎症のために上昇していても、TSAT は⽣理的鉄の⽋乏を反映するため、特に IBD、CKD、⼼不全、癌などの慢性疾患において有⽤である。
• TSAT 測定時には、直前 5〜9 時間以内に鉄含有⾷品、サプリメント、ビタミン剤の摂取を避ける必要がある。
4. 網⾚⾎球増加(Reticulocytosis)の役割
• 鉄補充後に網⾚⾎球数が 10 万/μL 以上に増加することは、鉄補充によって⾚⾎球産⽣が回復したことを意味し、鉄⽋乏の診断的証拠となる。
• 補充開始後 1 週間以内に網⾚⾎球の反応が⾒られない場合は、他の疾患(例:サブタイプの貧⾎や併存疾患)を考慮すべき。
5. ヘモグロビンおよび MCV の限界
• ヘモグロビンや MCV の低下は鉄⽋乏の遅発所⾒であり、これらの異常のみでは早期の鉄⽋乏は診断できない。
• 妊娠初期の 345 名を対象にした調査において、Hb<11 g/dL および MCV<80 fL のいずれも、フェリチン<30ng/mL を基準とする鉄⽋乏の診断に対する感度は 30%に過ぎなかった。
• 妊娠中に鉄⽋乏と診断された 1749 名のうち、50.5%が貧⾎または⼩球性⾚⾎球を⽰していなかった。
原因
鉄⽋乏の原因の同定は、適切な治療と再発予防のために極めて重要である。
原因精査は、症状、性別、⽉経状態、消化器症状の有無などに基づき⾏われる。
1. 出⾎による鉄喪失
a. ⽉経過多(heavy menstrual bleeding, HMB)
• ⽉経過多は鉄⽋乏の最も⼀般的な原因のひとつである。
• パッドやタンポンの使⽤頻度(例:1 時間に 3 枚以上、夜間も交換が必要)や 1 インチ以上の⾎塊の排出などにより、HMBが疑われる。
• HMB が疑われる場合、⼦宮筋腫やポリープなどの解剖学的異常(経腹超⾳波、⼦宮鏡)やフォン・ヴィレブランド病などの出⾎性疾患の評価が推奨される。
b. 消化管出⾎
• 明らかな上部または下部消化管出⾎(吐⾎、メレナ、⾎便)を認める場合、速やかな内視鏡検査が必要。
• 上部消化管症状(例:⼼窩部痛、早期膨満感、⾷欲不振、悪⼼、嘔吐、下痢)があれば、H. pylori 感染やセリアック病の評価、ならびに上部内視鏡検査が推奨される。
• 症状が乏しい場合でも、原因不明の鉄⽋乏がある場合は、上部・下部内視鏡を⾏うべき。
• American Gastroenterological Association (AGA) による報告では、症状のない鉄⽋乏性貧⾎患者(閉経後⼥性および男性)12,040 ⼈中、上部消化管癌が 2.0%、下部消化管癌が 8.9%であったと報告されている。これらは⼀般集団におけるスクリーニングと⽐較して約 100 倍の⾼率である。
2. 吸収障害
鉄吸収障害は、以下のような病態によって起こりうる:
• ⾃⼰免疫性胃炎(atrophic gastritis):胃酸分泌低下により⾮ヘム鉄の吸収が妨げられる。
• セリアック病:腸絨⽑の萎縮、炎症、ならびにヘプシジンの上昇により鉄吸収が障害される。
• H. pylori 感染:胃炎、無酸症、潰瘍を引き起こすことで鉄吸収を障害する。
• バリャトリック⼿術後(特に Roux-en-Y やスリーブ切除術):
• ⻑期の PPI 使⽤:胃酸の pH 上昇により鉄吸収を妨げる。
3. 慢性炎症性疾患に伴う鉄代謝異常(functional iron deficiency)
• 慢性炎症は肝臓でのヘプシジン産⽣を促進し、鉄の吸収および貯蔵鉄の動員を抑制する。
• 以下の疾患では絶対的鉄⽋乏または機能的鉄⽋乏が⾼頻度に認められる:
o 慢性腎疾患(CKD):24〜85%
o 炎症性腸疾患(IBD):13〜90%
o ⼼不全(HF):37〜61%
o 癌:18〜82%
• 肥満も慢性炎症および脂肪組織由来のヘプシジン増加により鉄吸収が低下する。
4. その他の要因
• 頻回の献⾎
• NSAIDs やアスピリンの使⽤による消化管微⼩出⾎
• 激しい運動やマラソン:溶⾎および GI 出⾎が起こることがある。
• 寄⽣⾍感染(特に開発途上国・難⺠):Strongyloides 属、鉤⾍、Schistosoma 属などが鉄喪失の原因となる。
5. 原因不明時の対応
• 初期評価で原因が明らかでない場合には、上下部消化管内視鏡を施⾏すべきである。
• それでも原因が不明の場合、カプセル内視鏡による⼩腸評価も選択肢となるが、エビデンスは限定的である。
治療
鉄⽋乏の治療は、鉄⽋乏の原因の是正とともに、鉄の補充を⾏うことである。
基本的には経⼝鉄が第⼀選択であるが、
経⼝投与が困難または効果不⼗分な場合には静注鉄が推奨される。
1. 治療の開始と原則
• 原因治療が優先される:出⾎源がある場合は⽌⾎・治療を⾏い、消化器疾患や⽉経異常の治療、出⾎性疾患の精査を並⾏して実施する。
• 鉄補充は原因確定前に開始してもよい:症状や検査所⾒から鉄⽋乏が明らかであれば、原因が特定される前に鉄補充を開始できる。
2. 経⼝鉄補充療法(oral iron)
a. 投与法
• 第⼀選択は経⼝鉄剤であり、特に硫酸鉄 325 mg(60 mg の元素鉄含有)を 1 ⽇ 1 回または隔⽇で投与することが多い。
• 隔⽇投与の⽅が副作⽤が少なく、吸収効率も同等または改善されるとの報告がある。
b. 投与期間
• フェリチン、TSAT、Hb が正常化するまで継続すべきである。
• 腸溶性製剤や徐放製剤は吸収が不良となるため、治療期間が⻑期化しやすい(2 年以上かかることもある)。
c. 副作⽤と対応
• 副作⽤には悪⼼、便秘、下痢、⾦属様味覚、⿊⾊便などがある。
• メタアナリシスでは、経⼝鉄はプラセボよりも有害事象のリスクが⾼く(オッズ⽐ 2.32)、さらに IV 鉄と⽐しても有害事象が多い(オッズ⽐ 3.05)。
• IBD 患者では、経⼝鉄により腸内細菌叢の多様性が低下する報告がある。
• 隔⽇投与や⾷直後の服⽤、製剤の変更で副作⽤を軽減できる。
d. 服薬指導
• カルシウム、⾷物繊維、茶・コーヒーなどは吸収を妨げるため、これらは服⽤の前後 1 時間は避けるべきである。
• ビタミン C や⾁タンパクとの併⽤は吸収を促進する。
• ⾷事からの鉄摂取のみでは補正は困難であり、既存の鉄⽋乏を補うには不⾜する。
3. 経⼝鉄のフォローアップ
• 副作⽤の確認、服薬アドヒアランス、症状の改善の有無を定期的に確認する。
• 初年度は 3 ヶ⽉ごとに Hb を測定し、2〜3 年⽬は年 2 回のモニタリングが推奨される(EHA 推奨)。
• 鉄⽋乏性貧⾎の場合、治療開始 2 週間で Hb が 1 g/dL 以上上昇することが期待される。
• 効果が乏しい場合は、吸収障害(例:⾃⼰免疫性胃炎、セリアック病)や持続的出⾎などの再評価を⾏う。
4. 静注鉄補充療法(intravenous iron)
a. 静注鉄の適応
以下のような場合に静注鉄が第⼀選択となる:
• 経⼝鉄不耐(副作⽤で内服困難)
• 経⼝鉄の吸収障害(例:バリャトリック⼿術、セリアック病)
• 慢性炎症性疾患(例:CKD、IBD、⼼不全、癌)で経⼝鉄が無効
• 持続的出⾎(特に⽉経過多や消化管出⾎)
• ⼿術予定が近く、迅速な鉄補充が必要
• 妊娠第 2・第 3 三半期
b. 静注鉄の有効性• 鉄⽋乏の迅速な補正において、静注鉄は経⼝鉄よりも効果が早く、特に産後⼥性において 6 週間後の Hb は静注鉄群の⽅が⾼かった(12.3 g/dL vs 11.7 g/dL)。
• RLS 患者にも効果があり、IRLSSG ガイドラインではフェリチン<100 ng/mL かつ TSAT<45%の場合に静注鉄が推奨されている。
c. 使⽤可能な静注鉄製剤(⽶国)
• 低分⼦デキストラン鉄
• フェルモキシトール(Ferumoxytol)
• 鉄カルボキシマルトース(FCM)
• 鉄デリソマルトース(FDI) など
o FCM と FDI は単回投与(15〜60 分)で 1000 mg の鉄を補充できる。
o ⼀⽅、鉄スクロースやグルコン酸鉄は複数回投与が必要である。
d. 副作⽤と注意点
• ⼀般に消化器症状は少ないが、軽度の注⼊反応(顔⾯紅潮、胸部圧迫感など)が 1〜4%にみられる。
• アナフィラキシーは⾮常に稀で、10 万回に 1 回以下である。
• FCM は低リン⾎症のリスクがあり、複数回投与する場合はリンのモニタリングが推奨される。
• 抗ヒスタミン前投与は逆に注⼊反応を増やす可能性があるため推奨されない。
• ⼀部の注⼊反応はCARPA(補体活性化関連擬似アレルギー)とされ、アドレナリンや抗ヒスタミンは不要である。
5. 輸⾎(RBC transfusion)
• 輸⾎は以下の場合に限り考慮される:
o 重度の貧⾎(Hb<7 g/dL)
o 出⾎性ショックや虚⾎性⼼疾患を伴う貧⾎
• 輸⾎は即時の Hb 上昇には有⽤だが、鉄の供給や貯蔵鉄の補正には不⼗分であるため、根治療法とはならない。

治療抵抗性高血圧 BMJ Review
BMJより「Diagnosis and management of resistant hypertension」
2024年6月
DOI: 10.1136/bmj-2023-079108
治療抵抗性高血圧について診断や治療などが解説されています。
その中から抜粋してご紹介します。
定義
• 異なる3種類以上の降圧薬(うち1種類は利尿薬)を最大または最大限耐えうる用量で使用しても血圧が目標値に達しない
• 4種類以上の降圧薬を必要とする
診断と評価
1. 正確な血圧測定
抵抗性高血圧の診断には正確な血圧測定が必要。不適切な測定手技は高血圧を過大評価する。
血圧測定時の注意点
• 適切なカフサイズの使用
小さすぎるカフ:血圧を高めに測定
大きすぎるカフ:血圧を低めに測定
• 正しい腕の位置:心臓の高さで測定することが重要
• 安静状態で測定:測定前に少なくとも 5分間の安静が必要
• 測定時の環境:静かな場所で測定し、会話を避ける
2. 白衣高血圧の除外が重要
• 診察室血圧が高くても、家庭や職場で正常範囲である白衣高血圧の可能性がある。
• 自由行動下血圧測定(ABPM: Ambulatory Blood Pressure Monitoring) や 家庭血圧測定(HBPM: Home Blood Pressure Monitoring) が有用。
• 自動診察室血圧(AOBP: Automated Office Blood Pressure)も、白衣高血圧を排除するのに役立つ。
• 心血管リスクは一般の高血圧患者よりやや低いが無視できない
3. 見かけ上の治療抵抗性高血圧の除外する
(1) 薬剤非遵守
RHの患者の25~50% は、実際には薬剤を適切に服用していないことが原因である。
薬剤非遵守の主な原因
• 副作用(例:スピロノラクトンの男性型乳房、利尿薬の頻尿)
• 多剤併用(ポリファーマシー) による服薬負担
• 経済的な問題(薬剤費の負担)
• 服薬スケジュールの煩雑さ(1日2回以上の服薬)
(2) 血圧測定の誤り
• 診察室での測定が正しく行われていない可能性
• カフのサイズや測定環境が適切でない場合
(3) 白衣高血圧
• 既述の通り、ABPMやHBPMを用いた評価が重要。
4. 二次性高血圧のスクリーニング
抵抗性高血圧(RH)の患者では、二次性高血圧の原因を特定することが重要である。
原因
原発性アルドステロン症:RH患者の 25% に合併、ARR、血中アルドステロン測定
腎血管性高血圧:線維筋性異形成、動脈硬化、腎動脈エコー、CT/MR血管造影
褐色細胞腫:発作性高血圧、発汗、動悸 24時間尿中カテコールアミン、メタネフリン測定
クッシング症候群:満月様顔貌、中心性肥満、24時間尿中遊離コルチゾール、デキサメタゾン抑制試験
甲状腺機能異常 低下症:徐脈・浮腫、亢進症:頻脈・発汗 TSH、FT4測定
睡眠時無呼吸症候群 いびき、昼間の眠気 終夜睡眠ポリグラフィー
5. 画像検査と血液検査
• 心血管リスク評価:心エコー(左室肥大の評価)、頸動脈エコー(動脈硬化の評価)
• 腎機能検査:血清クレアチニン・eGFR、尿タンパク/アルブミン比
• ホルモン検査:アルドステロン・レニン活性、カテコールアミン、コルチゾール、TSH
6. 治療抵抗性高血圧(True Resistant Hypertension)の確定
すべての除外診断を行い、以下の条件を満たす場合に 真のRH と診断する。
1. 適切な血圧測定が行われている
2. 薬剤非遵守がない
3. 白衣高血圧が除外されている
4. 二次性高血圧が除外されている
5. 3種類以上の降圧薬(ACE/ARB + CCB + 利尿薬)を最大耐用量で使用しても血圧が管理できていない
原発性アルドステロン症
スクリーニング対象者
・PAの典型的な臨床像は、HTと低K、および副腎腺腫を伴うものであった。
・現在では低Kを伴わない「正常K血症性高血圧」が最も一般的な臨床像
・低K血症はより重症な症例においてのみ認められる。
・現在の国際ガイドラインでは、より幅広い患者群へのスクリーニングを推奨している。
・英国およびアイルランド高血圧学会のガイドラインでは、40歳未満の全HT患者 にスクリーニングを推奨。
・米国の専門家ガイダンスでは、以下の患者もスクリーニング対象として推奨
- 重症高血圧
- 閉塞性睡眠時無呼吸を伴う高血圧
- 40歳未満での早発性高血圧または脳卒中の家族歴
- 心房細動を合併する高血圧
- PA患者の高血圧を有する一親等の家族
・多くの専門家は、ステージ2 HTの全患者に対してPAのスクリーニングを実施すべきであると考えている。
スクリーニング方法
• アルドステロンとレニン(活性または質量)を同時に測定することが推奨される。
• アルドステロン/レニン比(Aldosterone/Renin Ratio, ARR)は徐々に使用頻度が低下しており、 抑制されたレニンと不適切なアルドステロン分泌がスクリーニング陽性の基準とされる。
管理
降圧により心血管リスクを低減
• 効果的な降圧療法により、心血管疾患のリスクを軽減 できる。
• 血圧管理は、他の慢性疾患の治療よりも死亡率の低下に大きく寄与する。
• 収縮期血圧が 2 mmHg 低下するだけでも、集団レベルでリスクが減少 する。
• 収縮期血圧が 10 mmHg 低下、または拡張期血圧が 5 mmHg 低下すると、以下のリスクが低下する。
o 脳卒中:40% 減少
o 虚血性心疾患:30% 減少
o 主要心血管イベント:10% 減少(収縮期血圧 5 mmHg 低下時)
• SPRINT試験の二次解析では、抵抗性高血圧患者においても、集中的な降圧管理が標準治療より心血管疾患アウトカムを改善することが示されている。
生活習慣改善
• メタ解析では、高血圧患者において体重減少により血圧が 4.5/3.2 mmHg 低下することが示された。
• Na制限
- AHAガイドラインでは、1日あたりNa摂取量を 1500 mg 未満に制限することを推奨。
- 小規模研究では、Na制限が抵抗性高血圧の管理に有効であることが示された。
• アルコール制限:すべての高血圧患者に対して推奨される。
TRIUMPH試験
• 140人の抵抗性高血圧患者(うち31%が糖尿病、21%がCKD合併)を対象に実施。
• 4か月間の生活習慣改善プログラム(食事指導・行動的体重管理・運動)群と、標準的な医師の助言を受けた群を比較。
• 結果:診察室血圧・自由行動下血圧が有意に低下、
薬物療法
非遵守の評価と対策
• 患者の薬剤遵守率を徹底的に評価し、適切な指導を行うことが重要。
• 薬剤遵守を改善するための戦略
ジェネリック薬の使用
1日1回投与可能な薬剤を処方
固定用量の配合剤(Single-Pill Combination)を可能な限り使用
服薬指導、服薬管理ツール、リマインダーを活用
第一選択薬
• ACE阻害薬 / ARB + カルシウム拮抗薬(CCB) + 長時間作用型利尿薬
• チアジド系利尿薬の選択
o クロルタリドン、インダパミドはヒドロクロロチアジドより効果が高い
o しかし、米国ではヒドロクロロチアジドの方が一般的
o VAシステムの大規模試験では、クロルタリドンの方が心血管イベントを減少させる証拠は得られなかった
o LEGEND研究(73万人対象)でも、ヒドロクロロチアジドとクロルタリドンの有意な差は認められなかった
第4剤としての推奨薬
• スピロノラクトン(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬, MRA)
o PATHWAY-2試験では、スピロノラクトンが最も有効な第4剤であることが示された
o スピロノラクトンの降圧効果(収縮期血圧低下量)
スピロノラクトン:−12.8 mmHg
プラセボ:−8.7 mmHg
ドキサゾシン:−4.03 mmHg
ビソプロロール:−4.48 mmHg
• 男性患者ではスピロノラクトンの抗アンドロゲン作用(女性化乳房・性機能障害)を避けるため、エプレレノンが推奨される
• 腎機能低下患者では、高カリウム血症リスクを考慮し、非ステロイド型MRA(nsMRA)が選択されることがある
• AMBER試験では、パチロマー(カリウム吸着剤)がスピロノラクトンの使用継続を可能にすることが示された
2023年 ESH ガイドライン
• eGFR 30 mL/min 以上ではスピロノラクトンを推奨
• eGFR 30 mL/min 未満ではクロルタリドンを推奨
抵抗性高血圧のさらなる治療
• 4種類の降圧薬を使用しても血圧が目標値に達しない場合、追加の薬剤クラスを検討する。
o β遮断薬(β Blocker)
o α遮断薬(α Blocker)
o クロニジン(α作動薬, α Agonist)
o 血管拡張薬(Vasodilator)
ヒドララジン(Hydralazine)(β遮断薬と併用推奨)
ミノキシジル(Minoxidil)(特にCKD患者に推奨)
ミノキシジルは、β遮断薬とループ利尿薬またはクロルタリドンとの併用が有効(CKD患者での有効性が確認済み)
• ESH/ESC(欧州高血圧学会/欧州心臓病学会)のガイドラインでは、ミノキシジルの使用は推奨されなくなった。理由:心拍数増加や体液貯留といった副作用
• 血管拡張薬の追加により、反射性頻脈が生じる可能性があるため、β遮断薬の併用が推奨される。
• この段階の治療に関する臨床試験データは存在せず、これらの患者は高血圧専門医への紹介が推奨される。
抵抗性高血圧の新規治療
近年、新たな降圧薬が開発され、抵抗性高血圧の治療に有望と考えられている。
新規薬剤の種類
• エンドセリン受容体拮抗薬
• アルドステロン合成酵素阻害薬
• 新規非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
• 小干渉RNA(siRNA)によるアンジオテンシノーゲン産生阻害薬
• 心房性ナトリウム利尿ペプチド
• アミノペプチダーゼA阻害薬

MASLD Annals Review
Annals of Internal Medicineより「Metaboloc Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease」
2025年1月
DOI: 10.1016/S0140-6736(24)02385-7
以前までNAFLDの名称でしたが、2023年に変更になりました。
MASLDについて病態、診断、治療、予防など最新の知見をもとに解説されています。
その中から抜粋してご紹介します。
1. 用語と分類
・2023 年に「MASLD」という新たな名称が導⼊され、「NAFLD」や「NASH」という旧名称が置き換えられた
・MASLD :脂肪沈着+代謝異常(肥満,T2DM,HT,DL)
・MASH:炎症・肝細胞障害を伴うMASLD
・MetALD:MASLD+アルコール多飲
2. 予後
・MASLD患者の多くは単なる肝脂肪蓄積にとどまるが、心血管疾患リスクが高い。
・約20~30%のMASLD患者がMASHへ進展し、そのうち20%が肝硬変へと進行する。
・肝硬変患者の約45%が10年以内に肝機能の代償不全を発症し、7%が6.5年以内に肝細胞癌(HCC)を発症する。
3. 治療
MASLD の治療の主な⽬的は以下の 3 つである:
1. MASLD の進⾏を抑え、線維化を防ぐ:⽣活習慣の改善、必要に応じた薬物療法
2. 肝疾患の合併症(肝硬変や肝癌)のリスク低減:定期的な評価とスクリーニング
3. ⼼⾎管リスクを管理し、総死亡率を低減する:⾎圧・脂質・⾎糖の管理
A. ⽣活習慣の改善
(1) 体重減少
• 体重減少は MASLD の改善に最も有効な介⼊であり、以下のような効果がある。
3〜5%の減量:脂肪肝の改善
7〜10%の減量:MASH の解消、肝酵素(ALT, AST)の低下
10%以上の減量:線維化の改善
• 研究データ:
10%以上の減量を達成した患者の約 90%で MASH が解消し、45%で線維化が改善(Meta, 43 研究, 2021 年)。
体重減少により肝硬変への進⾏が抑制される可能性がある。
(2) ⾷事療法
• 地中海式⾷事(Mediterranean Diet)が推奨
⾼繊維・不飽和脂肪酸(オリーブオイル、⿂、ナッツ)
低糖質・低飽和脂肪(加⼯⾷品、⾚⾝⾁、⽢味料の制限)
砂糖・果糖を多く含む飲料(ソフトドリンク)の制限
• コーヒー摂取(1 ⽇ 3 杯以上)が MASLD の進⾏を抑制する可能性がある(肝線維化リスクを低下)。
(3) 運動
• 運動は肝脂肪の減少、インスリン感受性の向上、体重減少に寄与する。
• 有酸素運動(ウォーキング・ジョギング・サイクリング)
週 150 分以上の中等度運動が推奨(例:30 分×5 ⽇/週)
⼼⾎管リスク低下と MASLD 改善の両⽅に有効
• 筋⼒トレーニング(レジスタンス運動)
筋⾁量の増加によりインスリン抵抗性を改善
体重減少の維持に役⽴つ
• エビデンス
運動のみでも肝脂肪が減少するが、⾷事療法との併⽤が最も効果的。
有酸素運動+筋トレの組み合わせが最も有効(RCT データ)。
B. 薬物療法
(1) Resmetirom(肝指向性甲状腺ホルモン受容体 β 選択的アゴニスト)
• 唯⼀ FDA 承認の MASLD 治療薬(2024 年承認)。
• MASH(F2〜F3 線維化)の患者で、肝脂肪低下と線維化の改善が確認。
• 臨床試験:
MASH 解消率:Resmetirom 群 25.9〜29.9% vs プラセボ群 9.7%(P<0.001)
線維化の改善率:Resmetirom 群 24.2〜25.9% vs プラセボ群 14.2%(P<0.001)
副作⽤:下痢・悪⼼がやや多いが、概ね忍容性は良好
• 課題:⾼価・特殊薬局での処⽅が必要
(2) GLP-1 受容体作動薬(リラグルチド・セマグルチド・チルゼパチド)
• インスリン分泌促進+⾷欲抑制作⽤ → 体重減少&肝脂肪減少
• RCT データ:
リラグルチド(52 週, 52 名):MASH 解消 39% vs プラセボ 9%(P<0.001)
セマグルチド(72 週, 320 名):MASH 解消 59% vs プラセボ 17%(P<0.001)
チルゼパチド(72 週, 190 名):MASH 解消 44〜62% vs プラセボ 10%(P<0.001)
(3) SGLT2 阻害薬(カナグリフロジン・ダパグリフロジン)
• 尿糖排泄促進 → 体重減少 & インスリン感受性改善
• ⼼⾎管・腎保護作⽤もあり、糖尿病合併 MASLD に適応
(4) チアゾリジン誘導体(ピオグリタゾン)
• PPAR-γ 活性化 → インスリン感受性改善
• RCT データ(8 試験メタアナリシス)
MASH 解消オッズ⽐ 3.65(P<0.001)
線維化改善オッズ⽐ 1.77(P=0.009)
• 副作⽤:体重増加のリスクあり(3〜5%
