- ⼩分⼦抗ウイルス薬 (Small-Molecule Antivirals)
- 1. レムデシビル(Remdesivir)
- 2. ニルマトレルビル/リトナビル(Nirmatrelvir/Ritonavir)
- 3. モルヌピラビル(Molnupiravir)
Clinical Microbiology Reviewsより「COVID-19 therapeutics」
Published May, 2024
DOI: 10.1128/cmr.00119-23
Clinical Microbiology Reviewsはアメリカ微生物学会が発行している雑誌です。
臨床微生物学および感染症分野におけるReview論文が主に掲載されています。
この論文では、COVID-19の治療に関して、RCTがまとめられています。
各薬ごとに、入院と外来でのエビデンスに分けて整理され、とてもわかりやすいです。
その中から、抗ウイルス薬についてまとめて紹介します。
⼩分⼦抗ウイルス薬 (Small-Molecule Antivirals)
⼩分⼦抗ウイルス薬は、COVID-19 治療の中⼼的役割を果たします
これらは主に SARS-CoV-2 の複製プロセスを標的とし、感染初期段階での効果が期待されています。
以下に、3 つの主要な薬剤であるレムデシビル、ニルマトレルビル/リトナビル、モルヌピラビ
ルについて説明します。
1. レムデシビル(Remdesivir)
作⽤機序
• RNA 依存性 RNA ポリメラーゼ(RdRp)を阻害する核酸アナログ。
• 細胞内でプロドラッグ(不活性状態)から活性型(レムデシビル三リン酸: GS-443902)に変換され、ウイルス RNA 鎖の合成を停⽌させる。
• SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV-2 を含む複数のコロナウイルスに対して⾼い活性を⽰す。
臨床試験結果
◼︎ ⼊院患者
1. ACTT-1試験
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デザイン: プラセボ対照試験
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対象: 下気道感染の証拠があるCOVID-19入院患者1,062名
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結果:
2. 中国のRCT
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デザイン: 多施設共同、二重盲検、研究者主導
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対象: 入院患者237名
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結果:
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症状発現から10日以内にレムデシビルを投与された患者は、プラセボ群より臨床改善が早かったが、統計的有意性は認められなかった。
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3. GS-US-540–5774試験
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デザイン: オープンラベルRCT
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対象: 人工呼吸を必要としない未接種患者397名
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結果:
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5日間コースと10日間コースの間で14日目の改善に差は見られなかった。
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4. GS-US-540–5774の追跡試験
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デザイン: 追跡RCT
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対象: 未接種患者584名
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結果:
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10日間または5日間のレムデシビル投与は、11日目の臨床状態においてプラセボと比較して有意な改善を示さなかった。
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5. DisCoVeRy試験
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デザイン: オープンラベル、多施設RCT
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対象: 未接種患者857名
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結果:
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症状発現後7日以上経過し酸素療法を必要とする患者において、レムデシビルの臨床的な利益は認められなかった。
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ウイルス除去までの時間は中央値で0.7日短縮。
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6. RECOVERY試験
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デザイン: RCT
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対象: 入院COVID-19患者
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結果:
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人工呼吸管理を受けている患者に対するレムデシビルの有意な効果は認められなかった。
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他の入院患者では、死亡または人工呼吸への進行(またはその両方)を防ぐ上で小さな効果が見られた。
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7. WHO Solidarity試験
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デザイン: RCT
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対象: 35か国からの未接種患者14,304名
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結果:
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人工呼吸を受けている患者に対してレムデシビルの有意な効果は認められなかった。
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他の入院患者では、死亡率(11.9%対13.5%)や人工呼吸への進行(14.1%対15.7%)を防ぐ上でわずかな効果が見られた。
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治療に関する補足情報
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標準的な投与法:
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1日目: 200 mg負荷投与
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2~5日目: 100 mg/日(合計5日間)
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特殊状況:
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非侵襲的人工呼吸を受けている患者には、免疫調節薬との併用が有益。
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人工呼吸またはECMOを必要とする患者には、抗ウイルス療法を10日間に延長。
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高度な免疫抑制状態の患者では、さらに長期の治療が必要な場合あり。
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費用対効果:
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各国の支払い意欲の閾値の約8%~23%に相当。
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◼︎ 外来患者
PINETREE試験
- デザイン: プラセボ対照試験
- 対象:
- COVID-19外来患者562名
- 症状発現から7日以内
- 少なくとも1つの疾患進行リスク因子を有する患者(例:
- 年齢60歳以上
- 肥満
- 糖尿病
- 高血圧
- 慢性臓器疾患
- がん
- 免疫不全)
- 介入:
- レムデシビルを3日間投与
- 1日目: 200 mg
- 2日目・3日目: 100 mg
- レムデシビルを3日間投与
- 結果:
- 入院リスクの低下:
- レムデシビル群: 0.7%
- プラセボ群: 5.3%
- HR 0.13 (95%CI 0.03-0.59)
- 入院リスクの低下:
- 課題と限界:
- 外来患者における毎日の点滴投与は後方支援的に困難が多い
- 高い免疫を有する患者(過去の感染、ワクチン接種、またはその両方)の場合の効果は不明
- 高度免疫抑制患者には3日間を超える治療が必要となる場合あり
2. ニルマトレルビル/リトナビル(Nirmatrelvir/Ritonavir)
作⽤機序
• SARS-CoV-2 主要プロテアーゼ(Mpro)を阻害。
• リトナビルが CYP3A4 を阻害することで、ニルマトレルビルの代謝を遅らせ、⾎中濃度を維持。
• SARS-CoV-2 の複製サイクルを直接阻害し、オミクロン株などの変異株にも効果が持続。
臨床試験結果
◼︎ 外来患者
1. EPIC-HR試験(NCT04960202)
- デザイン: プラセボ対照RCT
- 対象: 高リスク患者(例: 高齢、肥満、糖尿病など)
- 介入: ニルマトレルビル/リトナビル 300/100 mgを1日2回5日間、発症3日以内に投与
- 結果:
- 28日間の入院率:
- ニルマトレルビル/リトナビル群で有意に低下
- 主に未接種者を対象とし、デルタ株の流行時に実施
- 28日間の入院率:
2. EPIC-SR試験(NCT05011513)
- デザイン: プラセボ対照RCT
- 対象: 標準リスク患者
- 介入: 同上
- 結果:
- 28日間の入院率:
- ニルマトレルビル/リトナビル群で効果は認められず
- 一部オミクロンBA.1株の流行時に実施
- 28日間の入院率:
3. EPIC-PEDS試験(進行中)
- デザイン: 第2/3相小児RCT
- 対象: 6~18歳の140名
- 介入: ニルマトレルビル300 mgと150 mgを比較
- 目的: 小児における体重調整型製剤の評価
- 進行状況: 結果は未発表
4. NCT05438602試験(進行中)
- デザイン: 三重盲検RCT
- 対象: 免疫抑制患者
- 介入: ニルマトレルビル/リトナビルを5日間、10日間、または15日間投与し、24週間追跡
- 目的: 免疫抑制患者における最適な治療期間の評価
- 進行状況: 結果は未発表
5. レトロスペクティブ研究
- デザイン: 医療システムの診療記録レジストリを基にした研究(ランダム化試験を模倣)
- 対象: ワクチン接種の有無や感染歴の異なる患者
- 結果:
- 入院または30日間の死亡リスク(相対リスク減少, ARR):
- 未接種者: 1.83%
- ワクチン接種者: 1.27%
- ブースター接種者: 1.05%
- 初感染者: 1.36%
- 再感染者: 0.79%
- 入院または30日間の死亡リスク(相対リスク減少, ARR):
- 意義: ワクチン接種時代では治療の必要人数が多く、費用対効果が課題
6. 妊婦を対象とした後ろ向き比較研究
補足情報
- 用量と推奨:
- 標準用量:
- ニルマトレルビル300 mg(150 mg×2錠)+リトナビル100 mg(100 mg×1錠)を1日2回、5日間投与
- 中等度の腎機能障害(eGFR 30~<60 mL/min):
- ニルマトレルビル150 mg(150 mg×1錠)+リトナビル100 mg(100 mg×1錠)を1日2回、5日間投与
- 重度の腎機能障害(eGFR <30 mL/min):
- 推奨はないが、透析後に調整された投与が推奨される場合あり
- 標準用量:
- 免疫抑制患者への使用:
- 課題: リトナビルと免疫抑制薬の相互作用のリスク
- 対応: 薬物相互作用に注意しつつ慎重に使用
- 費用対効果:
- アメリカでは、1品質調整生存年(QALY)あたり$8,931と推定
◼︎ 入院患者
1. 中国の多施設共同オープンラベルRCT
- デザイン: 多施設共同オープンラベルRCT
- 対象: 入院した成人患者264名
- 介入:
- ニルマトレルビル300 mg+リトナビル100 mgを12時間ごと5日間+標準治療
- 対照群: 標準治療のみ(レムデシビルは含まれない)
- 結果:
2. EPIC-HOS試験(NCT05545319)
- デザイン: プラセボ対照RCT
- 対象: 入院した免疫抑制患者
- 介入: ニルマトレルビル/リトナビル vs プラセボ
- 進行状況:「運営上の実現可能性」の理由により2023年3月に試験中止
- 結果: 未発表
3. モルヌピラビル(Molnupiravir)
作⽤機序
・細胞内でNHC三リン酸に代謝され、ウイルスRNAポリメラーゼ(RdRp)を標的。
・ウイルスRNAに「致死的変異(エラーカタストロフィー)」を引き起こし複製を阻害。
臨床試験結果
◼︎ 外来患者
1. MOVe-OUT試験
- デザイン: プラセボ対照RCT
- 対象:
- 軽度から中等度のCOVID-19を持つ未接種の外来成人
- 症状発現から5日以内
- 重症化リスク因子を少なくとも1つ有する患者
- サンプル数: 1,433名
- 結果:
2. インドにおけるAurobindo社の試験(CTRI/2021/07/034588)
3. AGILE-CST-2試験(NCT04746183, イギリス)
- デザイン: プラセボ対照、研究者主導RCT
- 対象: 外来COVID-19患者
- 結果:
4. PANORAMIC試験(ISRCTN30448031, イギリス)
- デザイン: RCT
- 対象: ワクチン接種済みの外来COVID-19患者
- サンプル数: 25,783名
- 結果:
- 29日目までの入院または死亡率:
- 両群で0.8%(有意差なし)。
- 結果の影響: 欧州医薬品庁(EMA)が承認を撤回、Merckが申請を取り下げ。
- 29日目までの入院または死亡率:
5. その他の試験結果・データ
- 免疫抑制患者を対象とした試験:
- モルヌピラビルは入院率を減少させる可能性があるが、対象数が少なく明確な結論は困難。
- 大規模医療記録レジストリを基にした研究:
- オミクロン流行期に入院予防効果を示唆する結果もあるが、単剤治療の信頼性は低下傾向。
◼︎ 入院患者
1. MOVe-IN試験
- デザイン: RCT
- 対象: アルファ株流行期に入院した未接種の患者304名
- 目的: モルヌピラビルの有効性評価(29日間の全死因死亡率、持続的回復、SARS-CoV-2ウイルス量の改善)
- 結果:
- 29日間の全死因死亡率: 有意な低下なし
- 持続的回復: 改善なし
- ウイルス量: 減少なし
- モルヌピラビル群で若干高い死亡率が観察され、倫理委員会の判断により試験中止
- 結論: 入院患者におけるモルヌピラビルの有効性は確認されず。
2. オミクロン流行期の模擬RCT
- デザイン: 模擬RCT(emulated RCT)
- 対象: 入院後5日以内にモルヌピラビルまたはニルマトレルビル/リトナビルの治療を開始したCOVID-19患者
- 目的: 経口薬の28日間の全死因死亡率および重症化進行への影響を評価
- 結果:
- 28日間の全死因死亡率: 低下が推測された(詳細な数値は報告なし)
- 人工呼吸器使用やICU入室への進行: 抑制効果なし
- 統計的限界により結果の信頼性に課題があると指摘。
- 結論: 経口薬が死亡率低下に寄与する可能性があるが、重症化進行への効果や統計的信頼性に課題が残る。