NEJMの総説「Heart Failure with Preserved Ejection Fraction」
Published Jan, 2025
DOI: 10.1056/NEJMcp2305181
NEJMから、HFpEFの総説を紹介します。
近年の重要な試験やガイドラインについて整理されています。
また、高血圧や心房細動など併存疾患に対する治療が基本となることも強調されています。
その中から、治療についてまとめました。
治療の⽬標
・駆出率保持型⼼不全(HFpEF)の治療⽬標は、⼼不全の徴候と症状に対応し、QOLを改善し、⼊院リスクを軽減すること
・死亡率を有意に低下させる治療はない。
・多くの試験はEF 40-45%以上の患者を対象。EF 50%以上に特化した結論を導くのは困難。
基礎疾患および併存疾患の治療
・併存疾患(HT、Af、DM、呼吸器疾患、虚⾎性⼼疾患、弁膜症、肥満など)の治療は、HFpEF 患者の治療戦略の基盤である。
薬物療法
レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬
• HFpEF における RAS 阻害薬の有効性は多くの試験で検討されてきた。
• RAS 阻害薬に関する試験では、HFpEF への有意な有益性は確認されていない。
• CHARM‒Preserved trial;RCT, 2003, Lancet
- カンデサルタンで複合アウトカム(⼼⾎管死, 心不全入院)減らず(HR 0.89, 95%CI 0.77‒1.03)
- ⼼不全⼊院(secondary)はカンデサルタンで有意に低下
• I-PRESERVE trial;RCT, 2012, Circ Heart Fail
- イルベサルタンでMLHFQ(ミネソタ心不全生活の質質問票)の改善なし(HR 0.95、95%CI 0.86‒1.05)
• PEP-CHF trial;RCT, 2006, Eur Heart J
- ペリンドプリルは死亡または⼼不全⼊院を減らさず (HR 0.92, 95%CI 0.70‒1.21)
- 1 年時点での⼼不全⼊院はペリンドプリルで低下(HR 0.63, 95%CI 0.41‒0.97)
アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNI)
・ PARAGON-HF trial, RCT, 2019, NEJM
- EF 45%以上の⼼不全患者 4822 名に使⽤した試験。
- 複合アウトカム(⼼⾎管死, ⼼不全⼊院)は減らず(率比 0.87、95%CI 0.75‒1.01)
- ⼥性では有益(率⽐ 0.73、95%CI 0.59‒0.90)
- EF が57%未満では有益(率⽐ 0.78、95%CI 0.64‒0.95)
• PARAGLIDE-HF trial, RCT, Circ Heart Fail
- ⼼不全増悪後に安定した EF≧40%の466 名を対象
- vs バルサルタン
- NT-proBNPが有意に減少
- EF <60%の患者で効果がより⼤きいが、低⾎圧が増加(OR 1.73、95%CI 1.09‒2.76)
• PARALLAX trial, RCT, JAMA
- EF≧40%の2572 名を対象とした試験。
- vs RAS or プラセボ
- NT-proBNP が有意に減少
- 6 分間歩⾏距離は改善なし
鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRAs)
• Aldo-DHF trial, RCT, 2013, JAMA
- スピロノラクトン 25 mg/⽇を使⽤した第 2 相試験(患者 422 名)。
- 左室質量とナトリウム利尿ペプチドの低下および拡張機能の改善を⽰した
- ⼼不全の症状や⽣活の質は改善なし
• TOPCAT trial, RCT, 2014, NEJM
- EF45%以上の HFpEF を対象とした第 3 相試験。
- ⼼⾎管死、⼼停⽌、⼼不全⼊院の複合アウトカム減らず
• FINEARTS-HF trial, 2024, NEJM
- フィネレノンを使⽤し、最⼤ 40 mg/⽇で治療。
- ⼼⾎管死と⼼不全イベントの⼀次複合エンドポイントを有意に減少
β 遮断薬
• ネビボロールやカルベジロールを使⽤した試験では、死亡率、⼼不全による⼊院、⽣活の質に改善は⾒られなかった。
利尿薬
• 利尿薬は最近まで HFpEF の唯⼀の推奨薬だったが、ランダム化試験のエビデンスはない。
• 鬱⾎の軽減、症状の緩和、⼼不全⼊院リスクの軽減が⽬的。
• 急性⼼不全患者の約 90%がループ利尿薬を使⽤。
• ガイドラインでは、可能な限り低⽤量での使⽤と、正常体液量達成後の中⽌を推奨。
• ⾼⾎圧を伴う患者ではサイアザイド系利尿薬も選択肢となる。
SGLT2 阻害薬
• HFpEFに対するエビデンスは、以下の 2 つの⼤規模試験に基づいている:
EMPEROR-Preserved trial, RCT, 2021, NEJM
・エンパグリフロジン 10 mg/⽇を投与。
・⼼⾎管死or⼼不全⼊院(複合アウトカム)を減少(HR 0.79、95%CI 0.69‒0.90)
DELIVER trial, RCT, 2022, NEJM
・ダパグリフロジン 10 mg/⽇を投与。
・⼼⾎管死or⼼不全⼊院(複合アウトカム)を減少(HR 0.82, 95%CI 0.73‒0.92)
メタアナリシス
・上記の2試験を統合した結果、⼼⾎管死または⼼不全による⼊院の⼀貫した減少が確認された(HR 0.80、95%CI0.73‒0.87)
・⼀次エンドポイントの減少は⼼不全⼊院の減少によりもたらされ、⼼⾎管死の減少は有意ではなかった
ガイドライン
・臨床試験結果に基づき、HFpEF への SGLT2 阻害薬の使⽤を推奨。
・効果の⼤部分は⼼不全⼊院の減少によるものである点を強調している。
GLP-1 受容体作動薬
STEP-HFpEF trial, RCT, 2023, NEJM
・セマグルチド(GLP-1 受容体作動薬)2.4 mg を週 1 回投与。
・プラセボと⽐較
・⽣活の質(Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire [KCCQ])の改善:セマグルチド 16.6 点 vs プラセボ 8.7 点
・体重減少:平均−13.3% vs −2.6%
・運動耐容能の改善(6 分間歩⾏距離):平均 21.5 m vs 1.2 m
・炎症軽減(CRPの変化率):−43.5% vs −7.3%
STEP-HFpEF DM Trial, RCT, 2024, NEJM
・HFpEF +DMの616名
・心不全関連症状の有意な改善
・有意な体重減少
SUMMIT trial
・チルゼパチド(GIP および GLP-1 受容体の⻑時間作⽤型作動薬)
・EF≧50%の心不全+肥満の364人
・心血管死または心不全悪化の複合リスクの低下:HR 0.62 95%CI 0.41~0.95
・健康状態の改善:KCCQスコアの変化 群間差が6.9ポイント(95%CI:3.3-10.6)
ガイドライン
概要
• HFpEF に対する治療法は国際的なガイドラインで要約されている(表 1 参照)。
• すべての国際ガイドラインで、患者に対する利尿薬治療が推奨されている。
SGLT2 阻害薬の推奨の違い
• ガイドライン間での主な違いは、SGLT2 阻害薬の推奨強度にある。
• 推奨の違いは、試験結果の公表時期とガイドラインの発⾏時期との関連を反映している。
• 2023 年の欧州ガイドライン改訂版:SGLT2 をクラス I 推奨「推奨される」
ARNI および MRA の推奨
• ⽶国および⽇本のガイドラインでは、HFpEF 患者に対する ARNI および MRA の使⽤をクラス IIb 推奨「考慮してもよい」
RAS 阻害薬と MRA の使⽤
• カナダのガイドラインでは、RAS 阻害薬および MRA の使⽤が推奨されている。
• ⼀⽅で、欧州⼼臓病学会(ESC)のガイドラインでは、これらの薬剤に関する推奨は⽰されていない。